4年生の夏ごろになり、卒業テーマを決めることになりました。
大槻教授の頭の中には3つのテーマがあったようです。
(1)パラメトリックX線の理論
(2)結晶に入射させた粒子線に見られるカオス
(3)プラズマ発光体(火の玉)の実験
研究室に入る段階で、理論希望が2人、実験希望が1人だったので、実験希望の学生は自動的に(3)に決定。
「カオス!カオス!」と騒いでいた僕には、(2)のテーマが与えられました。
(1)の研究テーマは、研究室で代々受け継いでいるテーマで、粒子線のカオス現象というテーマは、O槻教授が新しく始めたいと考えているものでした。
このテーマをやるために、今年のゼミの本が「カオス」に決めたとのことでした。
しかし、僕の中では、すでにテーマが「カオス」から「自己組織化」へ絞り込まれていて、卒業研究であっても、自己組織化現象をやりたいという気持ちがありました。
互いに相互作用をする要素が、パラメータの変化によって秩序を生み出す・・
この切り口に関するテーマをやりたかったのです。
そこで、物性の研究テーマの中で、このような切り口でできそうなテーマを探しました。
見つかったのが、
結晶のフラクタル成長
新しく加わる粒子が結晶全体の安定性を変化させ、次に加わる粒子の位置に影響し、その結果として結晶全体にフラクタルパターンが生まれると言う現象です。
テーマを与えられた1週間後、毎週行われている昼食会(教授を囲んで会議室でお弁当を食べる会)のときに、O槻教授のところへ行き、「研究テーマを、フラクタル結晶成長に変えさせて下さい。」と頼みました。
教授は、
「君が、変えたいと思った理由を述べなさい。」
と言いました。
会議室には、緊張感が走りました。
僕は、自己組織化がどうしてもやりたいことを、一生懸命説明しました。
「君がどうしてもやりたいのなら、いいでしょう。やりなさい。」
教授がそう言ってくれたおかげで、自己組織化を研究テーマにできることになりました。
まだ、研究を1度もしたことがない大学4年生が、教授の与えたテーマを断って、自分が考えたテーマをやるというようなことは、あまり聞いたことがありません。
それを受け入れてくれた教授には、感謝しました。
当時、月刊「宝島」で、「知の立ち上がる瞬間」という特集をやっていました。
その中で若い研究者へ向けて、次のようなアドバイスが書いてありました。
「研究テーマを選ぶときは、それがないと生きていけないようなテーマを選びなさい」
「しかし、それをはじめるときには、そこへ向かう小さな一歩からはじめなさい」
自己組織化は、当時の僕にとって、まさに「それがないと生きていけないようなテーマ」に思えました。
そして、そこへ向かって小さな一歩を踏み出せることになり、卒業研究に対してモチベーションが大いに高まりました。
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