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Channel: 究極の物理勉強法~たとえ話と微積分で高校物理が楽しくなる
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複雑系に共感し、論文を読み漁る

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伝統的な物理では、複雑に見える現象を扱うときに単純な現象に分解し、それぞれを調べ上げた後、合成するという「分析と総合の手法」がとられていました。


デカルトの「方法序説」以来、科学者が取り続けてきた方法です。


この方法が有効な場合は、その複雑な現象を構成している要素こそが、現象の本質だと見なすことができます。


このような考え方を、「要素還元主義」といいます。


複雑系は、要素還元主義のアンチテーゼとして生まれた考え方です。


生命システムでは、細胞という要素を寄せ集めただけでは多細胞生物にはなりません。


細胞が相互作用をしているなかで、細胞集団に秩序が生まれ、要素に分解できないものが細胞集団に生まれたときに、それを多細胞生物と呼ぶのです。


生命システムのようなものを理解するときには、要素(サブユニット)だけではなく、要素と相互作用の仕方の両方を考慮しなくてはなりません。


「要素」に還元するのではなく、「要素と相互作用」という組み合わせを考えて、
そこに生じる「複雑ではあるが、一定の秩序も存在する現象」を一般的に捉えていこうという試みが、「複雑系研究」です。


複雑系には、生命システムに限らず、「要素と相互作用」という組み合わせと「複雑な振る舞い」との間の関係を、一般的に解明していこうということで、さまざまな研究が行われていました。

・貨幣が物々交換の中から自然と発生するメカニズム
・交通渋滞が自然発生するメカニズム

といった、「物理」とは関係のないようなテーマも、複雑系という枠組みで研究されていました。


物理が、「モノ」に着目して、「モノ」を支配する法則を追求するのに対し、複雑系は、「コト」に着目して、「相互作用する要素集団に生じる複雑な振る舞い」に潜む一般的な法則を見つけ出すことを目標としていたのです。


粘菌アメーバの集団に生じる多細胞生物としての秩序について研究していた僕にとって、複雑系の考え方は非常に共感するものがありました。


20年ほど前は、複雑系は、ちょっとしたブームになっていました。


ワードロップの「複雑系」という本が出版され、ベストセラーになっていました。

複雑系―生命現象から政治、経済までを統合する知の革命/新潮社

¥3,465
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当時、複雑系をリードしていたのは、3人の研究者


東大の金子邦彦さん
東大の池上高志さん
北海道大学の津田一郎さん


この3人の論文や著書を読み漁りました。

複雑系のカオス的シナリオ (複雑系双書)/朝倉書店

¥5,775
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複雑系の進化的シナリオ―生命の発展様式 (複雑系双書)/朝倉書店

¥6,195
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カオス的脳観―脳の新しいモデルをめざして (サイエンス叢書)/サイエンス社

¥1,838
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特に、金子さんがやっていた、「カオス素子を多数結合してそこに生じる秩序を調べる研究」や、大阪大学の四方哲也さんとの共同研究でやってた「大腸菌コロニーの分化の数理モデル」の研究には注目していて、自分でもプログラムを作って追試したりしていました。


また、ある研究会に参加したとき、廊下で休んでいる金子さんを発見したので、直接頼んで、金子研のゼミに参加させてもらったりもしていました。



新しい科学が立ち上がる!その瞬間に自分も立ち会っているんだ!という興奮がありました。


京都大学で「複雑系研究会」というものが開かれることになり、交通費を節約するために夜行高速バスで京都へ向かいました。


そこで、今でも忘れられない衝撃的な研究発表を見ることになりました。



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