月曜日は、毎週、物理のたとえ話を紹介します。
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「自然大全集」は、「無限図書館」にある「第1巻から無限巻」まで続く全集です。
本棚が無限個ある「無限図書館」以外には、置くことができません。
書いてある内容が、あまりに多いので、読み終えた人は誰もいません。
本の中身は、すべて古代文字「滑車形文字」で書かれています。
この「自然大全集」を理解するために、発明王、江尻尊(えじり・そん)は、
「要約機能つき翻訳機 おまかせゲンリー」
という機械を発明しました。
入力文字が、古代文字などの場合は、最初にある程度のデータを読み込んで、
そのデータをもとに文法規則を予測し、内容を把握します。
さらに、
「人間が理解できる内容は、どうせ100ページ分」
というあきらめのもと、どんな情報でも、100ページ以内に要約します。
その結果、どんなものでも、最終的には理解可能に結果が出力されます。
江尻尊は、「おまかせゲンリー」を使って、さまざまなものを翻訳&要約していきました。
そして、ついに、「自然大全集」を「おまかせゲンリー」に読み込ませるという大プロジェクトに取りかかりました。
早速、第1巻から「おまかせゲンリー」に読み込ませていきます。
最初の10年は、「滑車形文字」の文法構造をつかむことに使われました。
一部の学者からは、
「10年でよいのか?無限巻あるんだぞ!」
という批判がありましたが、江尻尊は、自分が生きているうちにこのプロジェクトの結果を見たかったので、10年で次の作業に移ることにしました。
いよいよ読解作業に入りました。
自然大全集を読んでいくと、似たような内容がくり返し登場します。
これらをすべて同じものとしてまとめて要約していきます。
50年後には、「おまかせゲンリー」は、1億巻まで読みすすめました。
要約された内容は、最近は、あまり変更されることなく、表現を少し変更する程度です。
江尻尊は、この結果を見て、100歳の誕生日に記者会見を開きました。
「おまかせゲンリーによる、自然大全集の要約に成功した。」
ある記者から、質問が飛びました。
「でも、無限巻あるんですよ。
もし、自然大全集を1冊の小説に例えると最初の1行もまだ読んでいないことにはならないのですか?」
江尻尊は答えた。
「私が言ったのは、究極の要約に到達したという意味じゃない。」
「おまかせゲンリーによって、自然大全集を理解可能にするという試みが成功だと言っているのだ。」
「私の寿命が尽きても、おまかせゲンリーは動き続けるだろう」
「今の要約が正しいかどうかも、おまかせゲンリーが明らかにするだろう。」
別の記者から質問が飛んだ。
「でも、無限巻あるんですよ。本当におまかせゲンリーによって、
要約が正しいかどうかが判定できるのですか?」
記者会見は、いつまでも終わることがなく続くのだった。
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★たとえ話終了★
僕は、物理を、
「無限の自然を、有限な脳で理解可能なものにするためのインターフェース」
というふうにイメージしています。
インターフェースという言葉が分かりにくいかと思って、今回は、
「要約機能つき翻訳機」
ということにしてみました。
無限を有限のものに落とし込むときには、常に困難がつきまといます。
その困難が伝わったでしょうか。
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【物理たとえ話37】要約機能つき翻訳機
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