月曜日は、毎週、物理のたとえ話を紹介します。
■力とは「物体の運動を等速直線運動からそれさせるもの」
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第6号では、アリアリ君とガリガリ君の話をしました。
そこでのポイントは、物理が対象にしているのは、「感覚で捉えた世界」ではなく、
その背後にある「理想化した世界」だということでした。
そして、その理想化した滑らかな水平面上の運動を思い浮かべて、
「力のはたらいていない物体の運動が、等速直線運動である。」ことを、
見抜いたのでしたね。
これが、
慣性の法則
です。
慣性の法則は、「力の本質」を、半分表しています。
力が働いていない物体の運動は、等速直線運動なのだから、
力が働くと、物体の運動はどうなりますか?
等速直線運動からそれますね。
では、力とは何か?
力とは、「物体の運動を、等速直線運動からそれさせるもの」です。
では、どのようにそれさせていくのか?
それは、慣性の法則には表されていません。
だから、半分なのです。
どのようにそれさせていくのかを表す規則が運動方程式です。
今日のたとえ話は、運動方程式についてです。
では、たとえ話モードへ突入!
~~ たとえ話「理想的水平面でのカーリング」 ~~
物理の授業で「限りなく滑らかな水平面」について習ったので、A君とB君は、
その理想的な水平面でできたリンクの上で、カーリングをすることにしました。
交互にストーンを滑らせて、円の中に静止させることができたら得点になります。
ところが、理想的な水平面には摩擦力が働かないので、
ストーンは等速直線運動をしてしまい、絶対に静止しません。
そこで、ゲームのルールを変えることにしました。
新しいルールは次のようなものです。
まず、リンクの右端から一人がストーンを滑らせます。
もう一人がリンクの中央付近で力を加えて、速度の大きさを変化させます。
ストーンがリンクの左端に到達するまでにかかった時間が10秒間に近いほど、
中央で力を加えた人の得点が高くなります。
得点が高いほうが勝ちです。
2種類の異なる質量のストーンを用意して、ゲームを始めました。
1つのストーンは5kg、もうひとつは1トンあります。これらのストーンは、
外見はまったく同じで、見ただけでは区別がつきません。
まずは、A君が投げる番です。
A君は、5kgのストーンを選び、ゆっくりと滑らせました。
B君は、リンクの中央でじりじりしながら、ストーンがやってくるのを待っています。
6秒後に中央付近に到達しました。
B君は、残り4秒で到達できるように、強い力を1秒間加えました。
ストーンは加速され、A君が投げてから9秒後にリンクの左端に到着しました。
力の大きさや、加えた時間の長さが少し大きすぎたのです。
次はB君が投げる番です。
B君は1トンのストーンを選びました。A君は5kgのストーンだと思っています。
B君は、このストーンに先ほどA君が投げたのと同じ速度を与え、滑らせました。
A君は、「B君はすこし強すぎたんだよなぁ」と言いながら、
B君よりも、少し弱い力を1秒間加えました。
ところが、ストーンはA君の力の影響をほとんど受けず、ほぼ、等速直線運動をして、
11.99秒後に、リンクの左端につきました。
10秒に近かったB君が勝ちました。
2人は、1トンのストーンを片付けながら、今回のゲームについて話しました。
B:「今回のゲームで、力と質量が速度変化に与える影響が、イメージできるようになったね。」
A:「そうだね。力を強く加えるほど、速度が大きく変化するんだよね。」
B:「あと、質量が大きいほど、速度が変化しにくいんだよね。」
A:「そうだよ。1トンのストーンに力を加えても、速度がぜんぜん変わらないから、おどろいたもの。」
B:「でも、あのとき、あのまま力を加え続けたらよかったんだよ。」
A:「2秒間、力を加えたら速度は2倍変化したって言いたいんだね」
B:「ただ、それでも、僕の勝ちには変わらないんだけどね。」
A:「じゃあ、言うなよ。」
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このメルマガで、初めて数式を使ってみます。難しくないから、がんばってついてきてくださいね。
ここで、運動方程式のイメージがつかめたら、一生ものの財産ですよ。
ゆっくりとした速度vで滑ってきたストーンに力Fを、
Δt秒間加えたら、速度が増加して、Vになったとしましょう。
ストーンの質量は、Mとします。
図は、こんな感じです。
→ v ―→ V
○→F ○→F
時刻 0 時刻 Δt
等速直線運動からのそれの度合いである速度変化をΔVとしますね。
その速度変化が、FやMやΔtとどのような関係にあるか考えてみましょう。
力Fが大きいほど、速度は大きく変化するので、ΔVはFに比例します。
時間Δtが大きいほど、速度は大きく変化するので、ΔVはΔtに比例します。
質量Mが大きいほど、速度の変化は小さくなるので、ΔVはMに反比例します。
よって、このようになります。
ΔV=V-v=(F Δt)/M
両辺にMをかけて、両辺をΔtで割ると、
M(ΔV/Δt)=F
ここで、ΔV/Δtは、単位時間あたりの速度の変化=加速度 という量です。
これを、aとおくと、
Ma=F
という式になります。これが、
力学の原理である運動方程式
です。
これまで、何度も登場してきたものですね。
すべての力学現象は、この式だけから説明していきます。
強調してもしきれないほど大切な式ですね。
この式が、「先割れスプーン」です!
創刊号参照→ http://rikasougou.com/soukan.html
全ての力学の問題をこの式から解くんです!
第3号参照→ http://rikasougou.com/BN004.html
次に、この式の読み方を教えますね。
まず、右辺の力Fを手で隠します。
Ma=(手)
Fは見えなくなりましたね。このまま、しゃべりつづけます。
「力が働かないときは、速度の変化率である加速度aはゼロ。
つまり、物体は、等速直線運動する。」
はい、慣性の法則が見えました。
次に、手を離します。
Ma=F
そして、こう言います。
「力Fが加わると、物体の運動は等速直線運動からそれて、変化する。
質量Mは、速度の変化のしにくさ。重さじゃないよ。」
これが、運動方程式のイメージです。
間違っても、「Maという力がある。」
なんて、読まないでくださいね。
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【物理たとえ話07】理想的水平面でのカーリング
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