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Channel: 究極の物理勉強法~たとえ話と微積分で高校物理が楽しくなる
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【物理たとえ話08】スペースシャトルでハイタッチ

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月曜日は、毎週、物理のたとえ話を紹介します。


■質量は「速度の変化のしにくさ」、重さじゃないよ!
───────────────────────────────────


第7号では、運動方程式について説明しました。

こちらです → http://rikasougou.com/BN007.html

その中で、質量Mについて、

「Mは速度の変化のしにくさ。重さじゃないよ!」

と説明しましたよね。

運動方程式

Ma=F

の左辺に書いてあるMは、「慣性質量」と呼ばれている量です。

「慣性」という言葉は、それまでの運動を引き続き行うという意味ですから、

ここに、「速度の変化のしにくさ」という意味が込められています。

今日のたとえ話は、「慣性質量」についてです。

それでは、たとえ話モードへ突入!


~~ たとえ話「スペースシャトルでハイタッチ」 ~~


スペースシャトル・ガリレオ号が、地球を周回し始めてから、今日で1週間が経ちました。

宇宙飛行士のケンジとジョージは、朝からそわそわしています。

今日の正午に、故障した原子炉衛星を、
ロボットアームで捕まえて回収するという難しい任務を控えているからです。

NASAでのトレーニングではうまくいきましたが、
宇宙での作業にはアクシデントがつきものです。

万一失敗したら、地上へ落下してしまうかもしれません。

ケンジがスペースシャトルを操縦し、ジョージがロボットアームを操ります。

2人の息が合わないと絶対に成功しません。

11時45分になりました。

ここでアクシデントが発生しました。

ロボットアームを格納している扉が開かないのです。

ケンジ:「スペースシャトルを自動操縦にしよう。僕が宇宙に出て開けにいく。」

ジョージ:「だが、それは危険すぎる。自動操縦にしたら、
一回でつかめなかったときに、再接近することができないじゃないか。」

ケンジ:「でも、それしかない。ジョージなら一回でできるさ。」

ジョージ:「‥‥」

ジョージ:「分かった。やろう。ケンジも気をつけて」

というわけで、ケンジが、宇宙服を着て船外に出ました。命綱を頼りに、宇宙遊泳をしながら、
扉のところまでいきました。

扉を見ると、小さな隕石が衝突した跡があり、そのせいで鉄板が曲がって開かなくなっています。

ケンジは、小さなドリルを取り出し、鉄板に穴を開け、扉を開こうとしました。

でも、なかなか開きません。

そうこうしているうちに、原子炉衛星の姿が大きくなってきました。

時計を見ると、11時55分です。ケンジは、必死でドリルを回しました。

原子炉衛星は、もう直ぐそこまで来ています。

一方、ジョージは、ロボットアームの操縦桿を握り締めながらじりじりしていました。

ロボットアームを伸ばし、原子炉衛星を掴むまでに、どんなにうまくいっても3分はかかります。

もうタイムリミットです。

突然、扉が外れました。時計を見ると11時56分です。

ジョージは大急ぎで、ロボットアームを伸ばし、
原子炉衛星のフレーム部分をロボットアームの「指」で掴みにいきました。

アームの長さと、開いている「指」の角度を、大急ぎで調整し「掴む」ボタンを押しました。

時計は、11時59分を指しています。

「ギー」(宇宙では音はしません)

と、「指」が原子炉衛星を掴みました。アームはいっぱいに伸びていました。

本当にギリギリのところでした。

ジョージは、ほっとため息をついて、そのまま、スペースシャトルへ衛星を収容しました。

そこへ、ケンジが戻ってきました。

「やったなジョージ」

「ケンジ! グッドジョブ!」

2人は船室の中央でハイタッチをしました。

下の図のような感じです。

     F←→F
     〇/\〇
     |  |
    /   \
   ケンジ ジョージ

このとき、2人の手を通して、同じ大きさの力Fが、互いに逆向きにはたらきました。

無重力の船内に浮かんでいた二人は、その力によって両側に動き出しました。

小柄なケンジに比べて、ジョージはもとアメフト選手で大柄です。

ケンジが、すごい速さで後ろに下がっていくのに、ジョージの速さはそんなに速くありません。

    〇/ \〇
2v ←― |    | →v
  /     \
ケンジ    ジョージ
    60kg ?kg

速さの比は、およそ2:1でした。

体重60Kgのケンジは、後ろに移動しながら、急に冷静になってつぶやきました。

「ジョージって120Kgもあるのか」


───────────────────────────────────


質量は「速度の変化のしにくさ」でしたよね。

そして、力は「速度を変化させるもの」でした。

ケンジとジョージは、ハイタッチする前にはほとんど静止していました。

そして、ハイタッチの瞬間、二人には同じ大きさの力Fが、手に加えられました。

その力Fによって、2人の速度は0から変化して動き出しました。

同じ力が加えられたのにも関わらず、ケンジに比べて、ジョージの速さは1/2でした。

この違いはどこから来ているのでしょう。

力の大きさは同じでも、その力によって生じる速度の変化のしにくさ、
つまり、質量がケンジとジョージでは異なったのです。

ジョージの方が速度が2倍変化しにくい、つまり、質量が2倍大きかったのです。
ケンジは、ジョージと自分の運動の様子を見て、その速さの比から、
ジョージの質量が自分の2倍であることが分かった
のです。

質量を間違ってイメージしそうになったら、この話を思い出して下さいね。


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