月曜日は、毎週、物理のたとえ話を紹介します。
■質量は「速度の変化のしにくさ」、重さじゃないよ!
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第7号では、運動方程式について説明しました。
こちらです → http://rikasougou.com/BN007.html
その中で、質量Mについて、
「Mは速度の変化のしにくさ。重さじゃないよ!」
と説明しましたよね。
運動方程式
Ma=F
の左辺に書いてあるMは、「慣性質量」と呼ばれている量です。
「慣性」という言葉は、それまでの運動を引き続き行うという意味ですから、
ここに、「速度の変化のしにくさ」という意味が込められています。
今日のたとえ話は、「慣性質量」についてです。
それでは、たとえ話モードへ突入!
~~ たとえ話「スペースシャトルでハイタッチ」 ~~
スペースシャトル・ガリレオ号が、地球を周回し始めてから、今日で1週間が経ちました。
宇宙飛行士のケンジとジョージは、朝からそわそわしています。
今日の正午に、故障した原子炉衛星を、
ロボットアームで捕まえて回収するという難しい任務を控えているからです。
NASAでのトレーニングではうまくいきましたが、
宇宙での作業にはアクシデントがつきものです。
万一失敗したら、地上へ落下してしまうかもしれません。
ケンジがスペースシャトルを操縦し、ジョージがロボットアームを操ります。
2人の息が合わないと絶対に成功しません。
11時45分になりました。
ここでアクシデントが発生しました。
ロボットアームを格納している扉が開かないのです。
ケンジ:「スペースシャトルを自動操縦にしよう。僕が宇宙に出て開けにいく。」
ジョージ:「だが、それは危険すぎる。自動操縦にしたら、
一回でつかめなかったときに、再接近することができないじゃないか。」
ケンジ:「でも、それしかない。ジョージなら一回でできるさ。」
ジョージ:「‥‥」
ジョージ:「分かった。やろう。ケンジも気をつけて」
というわけで、ケンジが、宇宙服を着て船外に出ました。命綱を頼りに、宇宙遊泳をしながら、
扉のところまでいきました。
扉を見ると、小さな隕石が衝突した跡があり、そのせいで鉄板が曲がって開かなくなっています。
ケンジは、小さなドリルを取り出し、鉄板に穴を開け、扉を開こうとしました。
でも、なかなか開きません。
そうこうしているうちに、原子炉衛星の姿が大きくなってきました。
時計を見ると、11時55分です。ケンジは、必死でドリルを回しました。
原子炉衛星は、もう直ぐそこまで来ています。
一方、ジョージは、ロボットアームの操縦桿を握り締めながらじりじりしていました。
ロボットアームを伸ばし、原子炉衛星を掴むまでに、どんなにうまくいっても3分はかかります。
もうタイムリミットです。
突然、扉が外れました。時計を見ると11時56分です。
ジョージは大急ぎで、ロボットアームを伸ばし、
原子炉衛星のフレーム部分をロボットアームの「指」で掴みにいきました。
アームの長さと、開いている「指」の角度を、大急ぎで調整し「掴む」ボタンを押しました。
時計は、11時59分を指しています。
「ギー」(宇宙では音はしません)
と、「指」が原子炉衛星を掴みました。アームはいっぱいに伸びていました。
本当にギリギリのところでした。
ジョージは、ほっとため息をついて、そのまま、スペースシャトルへ衛星を収容しました。
そこへ、ケンジが戻ってきました。
「やったなジョージ」
「ケンジ! グッドジョブ!」
2人は船室の中央でハイタッチをしました。
下の図のような感じです。
F←→F
〇/\〇
| |
/ \
ケンジ ジョージ
このとき、2人の手を通して、同じ大きさの力Fが、互いに逆向きにはたらきました。
無重力の船内に浮かんでいた二人は、その力によって両側に動き出しました。
小柄なケンジに比べて、ジョージはもとアメフト選手で大柄です。
ケンジが、すごい速さで後ろに下がっていくのに、ジョージの速さはそんなに速くありません。
〇/ \〇
2v ←― | | →v
/ \
ケンジ ジョージ
60kg ?kg
速さの比は、およそ2:1でした。
体重60Kgのケンジは、後ろに移動しながら、急に冷静になってつぶやきました。
「ジョージって120Kgもあるのか」
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質量は「速度の変化のしにくさ」でしたよね。
そして、力は「速度を変化させるもの」でした。
ケンジとジョージは、ハイタッチする前にはほとんど静止していました。
そして、ハイタッチの瞬間、二人には同じ大きさの力Fが、手に加えられました。
その力Fによって、2人の速度は0から変化して動き出しました。
同じ力が加えられたのにも関わらず、ケンジに比べて、ジョージの速さは1/2でした。
この違いはどこから来ているのでしょう。
力の大きさは同じでも、その力によって生じる速度の変化のしにくさ、
つまり、質量がケンジとジョージでは異なったのです。
ジョージの方が速度が2倍変化しにくい、つまり、質量が2倍大きかったのです。
ケンジは、ジョージと自分の運動の様子を見て、その速さの比から、
ジョージの質量が自分の2倍であることが分かったのです。
質量を間違ってイメージしそうになったら、この話を思い出して下さいね。
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【物理たとえ話08】スペースシャトルでハイタッチ
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