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Channel: 究極の物理勉強法~たとえ話と微積分で高校物理が楽しくなる
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松本元『愛は脳を活性化する』が与えた影響

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みなさんの学習意欲を高めるために、

・メルマガ・ブログ
・phys-com
・ライブ講義
 
の3つをどのように効果的に使うことができるのかということを考えたとき、

メルマガやブログの役割は、

・社会で起きている面白いことを伝える
・ロールモデルを作ることを助ける
・仲間の活動をシェアする

 
ということになるのではないかと思いました。
 
将来やりたいことが見つかったり、
すごい人の人生に触れて、自分も同じようになりたいと思ったり、
頑張っている仲間の存在を知って刺激を受けたり、
 
そういうことが、学習意欲の向上に役立つと思います。
 
そんなことを考えていたら、すごいニュースが飛び込んできました。

「IBMが脳型のプロセッサーの開発に成功した」という記事です。

記事はこちら


今日は、この話題を掘り下げてみたいと思います。


━━━━━━━━━━━━
■愛は脳を活性化させる
━━━━━━━━━━━━

僕にとって、脳型プロセッサーと切っても切り離せない人物がいます。
 
 
それは、故・松本元さん。
 
 
日本の脳科学研究のパイオニアの一人です。
 
 

(写真は、こちらからお借りしました)
 
 
彼は、物理学出身で、はじめは生物のことを何も知りませんでした。
 
 
そんな彼が掲げた目標は、「脳を創る」ということ。
 
 
誰もやったことがない、壮大な目標を掲げて研究を始めたのです。
 
 
脳を創るためには、その構成要素である神経細胞の特性を理解しなければなりません。
  
 
そのためには、実験に使える「巨大神経」が必要でした。
  

そこで、彼は、巨大神経を持つヤリイカの人工飼育から始めました。
 
 
ところが、ヤリイカというのは人工飼育が難しく、ノーベル賞受賞者の有名な生物学者ローレンツが、

「イカは人工飼育できない唯一の動物」

と言っていたほどだったのです。 
 
 
生物のことを知らない物理学者だった松本さんは、3年かけてヤリイカの人工飼育に成功し、世界を驚かせました。
  
 
ローレンツ博士は、自分の目で見るまでは信じないと言って来日し、一週間水槽に張り付いて観察して本当であることを確かめると、
 
「この水槽はこれからの全ての水産生物の未来を変える」
 
とコメントしたそうです。


イカ飼育用の水槽の前の松本さん(画像はこちらからお借りしました)
 
 
 
 
ヤリイカの巨大神経を使って自由に実験できるようになった松本さんは、神経細胞について次々と新しい発見をしていきます。
 
神経興奮のメカニズムを非線形ダイナミクスで理解できることを示したり、

神経興奮のパターンにカオスが存在することを示したり、

神経内に微小管が存在し、機能的に働いていることを発見したり、

これまでの常識を次々に覆していきます。
 
そして、それらの知見を基にして、ラットなどを用いた実験により、脳の学習原理について研究を進めていき、多くの知見を得ます。

そこから、生物システムの基本原理はメモリーベース情報処理機構と出力依存学習機構であり、それらが関係欲求(愛)および生理欲求により目標設定され、方向づけられていると考え、自分自身で目標設定を行って飛行するヘリコプターを製作します。

脳型システムの研究

 
松本さんは、脳型コンピュータの基本コンセプトを発案し、その根本原理がコンピュータに心を持たせることであり、それを実現させるための方法を示しました。
 
心を持つためには、生理欲求と関係欲求(愛)が必要で、それを満たすようにネットワーク学習をしていくのが脳であると考えたのです。
 
その考えを、端的に表しているのが、著書のタイトルにもなっている

『愛は脳を活性化する』

です。

愛は脳を活性化する (岩波科学ライブラリー (42))/岩波書店

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僕が、修士課程の学生だった頃、生物物理若手夏の学校というセミナーに参加し、そこで松本さんの講演を聞く機会がありました。
 
真っ黒に日焼けして、がっちりした体形の松本さんは、研究者の中では、異色のオーラを出していました。
 
そこで、彼が言った言葉は、20年たってもはっきりと覚えています。
 
それだけ大きなインパクトがありました。
 
 
今でも覚えている松本さんの言葉。
 
「人類は空を飛べると信じていました。なぜなら、鳥という存在証明があったからです。」

「そして、羽ばたき方式とグライダー方式という違いはあれ、ライト兄弟が空を飛びました。」

「私は脳型コンピューターができると信じています。なぜなら、私たちの頭の中に存在証明があるからです。」
 
「だから、タンパク質でできているかシリコンでできているかの違いはあれ、必ず脳型コンピューターは創れるのです。」

 
存在していないものを、意志の力で作り出すのは、ものすごいエネルギーが必要です。
 
 
多くの人を巻き込んで、渦を作り出していかなければなりません。
 
 
松本さんは、自分の周りに大きな渦を作り出していきました。
 
 
脳型コンピューターについての

Gen Matsumoto's Theory

は、脳型コンピューター開発の北極星の役割を果たしました。
 
 
2003年に松本さんが亡くなった後も脳型コンピューターの開発は、各地で進められ、先日、IBMが脳型コンピューターの開発に成功したという発表がありました。
 
 
松本さんが「必ずできる!」と言い続けてきた脳型コンピューターが、ついにできたのです。 
 
 
理科系は、創るためのスキルです。
 
 
誰もが、自分の思考能力を磨き、技術を磨き、ビジョンを語って仲間を募り、価値あるものを創ることができる可能性を持っています。
 
 
物理を学んでいる皆さんは、将来、何を創りたいですか?
 
 
それがはっきりしてくると、そのために必要な知識が、勝手にどんどん頭に入ってきます。
 
 
学ぶために学ぶのではなく、
創るために学ぶ。

 
 
そのように考えると、心のあり方が全く変わり、学習意欲が、心の底から沸々と湧き上がってきますよ。



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